坐骨神経痛の鍼灸治療
坐骨神経とは
坐骨神経は人体の最大の神経で、太さは直径1~2センチにも達します。
第4腰椎から第3仙椎から出る脊椎神経が数本合体して一本の太い坐骨神経となり、途中で総腓骨神経と脛骨神経に分かれ、お尻から太もも、下腿、足までの広い領域の感覚と運動を担当しています。
坐骨神経痛とは
上の図のように走行する坐骨神経に沿った形で、お尻、太もも、下腿、足に痛みやしびれが起きたものを「坐骨神経痛」と呼びます。
坐骨神経痛は、脊柱管(脊椎の中にあり神経を通しているパイプ)内か、そのすぐ近くの腰椎の神経根が圧迫されることが原因である根性坐骨神経痛と、梨状筋などのお尻の筋肉などが原因である坐骨神経痛に大きく2分することができます。
(もちろん妊娠や腫瘍が原因となる場合もあります。)
根性坐骨神経痛の原因
①腰椎椎間板ヘルニア
腰椎椎間板ヘルニアは、20~40代の働き盛りの男性に多く、(根性)坐骨神経痛の原因となる疾患です。
腰椎と腰椎の間にあるクッション材(椎間板)が破裂して、中身(髄核)が飛び出して、神経を圧迫してしまいます。
はじめは腰痛からはじまり、だんだんお尻や下肢へ痛みやしびれが広がっていくことが多いです。
一般的に腰を前屈(深いお辞儀)をすると症状が増悪します。
下肢の強い痛みやしびれ、麻痺、おしっこの感覚がおかしい場合は、すぐに整形外科を受診してください。
②腰部脊柱管狭窄症
悲しいけど加齢現象一つです。50代以降の方に多い疾患です。脊柱管内が加齢より腰椎の変形や椎間板の変性が起きたり、靭帯が分厚くなることにより、神経を圧迫してしまいます。脊柱管内の神経圧迫により坐骨神経領域にしびれや痛みが出ることが多々あります。
一般的に腰椎を後屈する(腰を反らす)と症状が増悪します。
③腰椎すべり症
腰椎と腰椎が滑る(ズレる)ことにより、脊柱管内の神経を圧迫しするタイプと、腰椎の後方部分が分離していまい、その分離した部分が神経を圧迫するタイプに2分されます。
いずれも坐骨神経痛を引き起こすことが多いです。
坐骨神経痛の原因
①梨状筋症候群
梨状筋は坐骨神経と隣接しており、梨状筋が過緊張すると坐骨神経を刺激してしまいます。
少ないながらも梨状筋の中を坐骨神経が貫通している人もおり、その場合は梨状筋の緊張がより坐骨神経痛を誘発しやすい。
また梨状筋の他に上双子筋、下双子筋、内閉鎖筋、外閉鎖筋、大腿方形筋(これらをまとめて「深層外旋六筋」と呼ぶ)も、坐骨神経と接しており、これら「深層外旋六筋」の過緊張が坐骨神経を引き起こす場合もある。
②その他筋肉が原因のもの
上記の「深層外旋六筋」のように直接は坐骨神経と接していないが、お尻や下肢に坐骨神経痛に似た症状を引き起こす筋肉があります。
特に小殿筋というお尻の筋肉が硬くなると、お尻から下肢にかけて坐骨神経痛のような症状を引き起こすことがあります。
また中殿筋も同様に、お尻から太もも辺りに痛みやしびれを引き起こすことがあります。
これは私の想像ですが、強力なパワーのある小殿筋中殿筋が緊張すると、筋膜同士が接続している太ももや下腿の筋膜に影響を与えて、痛みやしびれを起こしているのではないかと考えています。
また坐骨神経の走行上にある筋肉、ヒラメ筋、腓骨筋などが坐骨神経の枝を圧迫して、下腿や足に神経痛を引き起こすことがあります。
鍼灸治療の方法
*根性坐骨神経痛の鍼治療
根性坐骨神経痛の場合は、骨や靭帯などで神経や神経根が圧迫されることが原因です。
しかしながら、CTやMRIで腰部脊柱管狭窄症、腰椎椎間板ヘルニア、腰椎すべり症と診断された場合でも、実は骨や靭帯の圧迫だけでなく、硬くなった筋肉が神経を刺激して坐骨神経痛を引き起こしている場合があります。
ですので、硬化した筋肉を鍼でほぐしてあげるだけで、坐骨神経痛が解消したり、改善するケースがあります。
具体的な治療法は、腰痛の鍼灸治療と似ているのですが、神経根部付近を通っている大腰筋を狙って刺鍼します。(硬くなった大腰筋が神経を刺激してる場合がある。)
そして症状に応じて坐骨神経の走行上にある、お尻や太もも、下腿の筋肉に鍼をします。(梨状筋などの深層外旋六筋、大殿筋、中殿筋、小殿筋、大腿筋膜張筋、ハムストリングス、ヒラメ筋、腓骨筋、前脛骨筋等)
それでも改善が芳しくない場合は、腰椎の棘突起間(ツボで言えば腰陽関穴、十七椎穴など)、仙骨孔(次りょう穴など)や神経根の近くに鍼をして電気を流し、神経を刺激します(低周波鍼通電、神経パルス)。
患者さんの状態を見ながら、筋膜リリースや運動療法も併用します。
当院の鍼で改善するか否かは3回、多くても5回で分かります。
*患者さんの選択肢を奪わない
少し話が脱線します。治療家の中には整形外科手術を全否定する方もおりますが、当院の患者さんの中には腰部脊柱管狭窄症や椎間板ヘルニアの手術や注射(ヘルニコア)を受け、改善された方も複数いらっしゃいます。
私の考えとしては、まずは鍼灸院へ来る前に整形外科で検査。
ひどい症状の場合は外科手術も検討することも選択肢として除外してはならないと考えております。
治療効果が芳しくないのに、長く治療院に通院させてるうちに高齢になったり、基礎疾患が悪化して、手術が困難になったら、患者さんの貴重な機会を奪うことになります。
*筋肉が原因の坐骨神経痛の治療
上記の根性坐骨神経痛とほぼ同じ治療です。
原因の硬くなった筋肉を徹底的に柔らかくしていきます。
刺鍼時の体勢もただ単にうつ伏せ、仰向けだけじゃなく、筋肉が脱力しやすいポジショニングを考えて徹底的に緩めます。
大腿骨、仙骨、腸骨、坐骨、恥骨周辺の骨際につく筋膜を筋膜リリースで鍼よりも効率的に緩めます。
坐骨神経痛の運動療法
なぜ梨状筋や大腰筋が硬くなるのか?
上記で、「梨状筋や深層外旋六筋が硬くなるのが原因だ」とか「神経根部付近を通る硬くなった大腰筋に鍼をする」などと書きました。
ではそもそも、何故そこが硬くなるのか?
それは弱くなって働かなくなった他の筋肉をかばって、梨状筋なり大腰筋が過剰に緊張しているのです。
ではどうすればいい?
特殊な運動療法を行い、弱くなった筋肉を狙って鍛えて、働かすようにすればいいのです。
そうすると頑張ってガチガチになった梨状筋や大腰筋が、かばう必要が無くなり、自然と緩みます。
若林鍼灸院では、腰や股関節周辺の本来働くべき筋肉をキッチリと働かせるようにする施術も行っています。(JTAと関節トレーニング)
またご自宅でのセルフケア指導も併せて行います。
これで改善のスピードも上がるし、治った後の再発予防にもなります。
どうしても鍼が嫌いということで、運動療法とセルフケア指導だけで改善した方もいらっしゃいます。
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