腰痛の鍼灸治療

若林鍼灸院では、腰痛でお越しになる患者さんが最も多いです。
(次いで首、肩の症状が多い。)
まず初めに、その中でも、急性腰痛についての鍼灸治療をご紹介します。

ギックリ腰

現役世代の方の来院で特に多いのが「ギックリ腰」と呼ばれる急性腰痛です。

私の経験では腰椎の問題ではなく、筋肉の引きつりが原因である場合が大多数です。

日常的に疲労が溜まった腰の筋肉が、不意に伸ばされたり、捻られた事がきっかけとなり、痙攣を起こすように固まっている状態です。
鍼でその原因の筋肉を刺激し、筋肉の引きつりを解除すれば、早期に改善が見込めます。

この筋肉が原因となっている急性腰痛を、やや強引ですが、3つのタイプに大別してみます。

大腰筋タイプ

まず中腰で腰を伸ばしにくそうに鍼灸院に来られる方は、大腰筋(腸腰筋)が痙攣していることが多いようです。

このような方は、浅い部分にある筋肉を指圧してもあまり痛みがなく、腰の奥の方に痛みを感じる方が多いようです。
(大腰筋は深い場所にあるので、指圧では届きません。)

この大腰筋を痛めている患者さんには、長さ2寸5分~3寸5分(7.5cm~10.5cm)の長鍼で、大腰筋に直接刺すことにより、筋緊張を緩和します。

腰方形筋タイプ

腰方形筋は一番下の肋骨から骨盤の上縁を結ぶ、表面積の大きい筋肉です。

この筋肉の主な働きは、背骨を横に曲げることです。
この筋肉が引きつると、左右どちらかに体が傾き、姿勢が歪んでしまいます。

体を横に曲げたり、捻ったり、寝返りの際にも、ギクッと痛みが走ります。

また腰方形筋が骨盤の上縁(腸骨陵)に着いている為、その辺りを押すと痛みます。 
腰の筋肉(脊柱起立筋)が一番盛り上がった部分から外側に下り、平坦になった辺りから、体の中心(腰椎の椎体)方向に指圧しても痛みます。

このタイプも2寸5分~3寸位の鍼を使い、腰方形筋の外側から内側に向かって、鍼がこの筋肉の広い範囲を通過するように工夫して打ちます。

これは鍼灸師向け情報ですが、柳谷素霊の『一本鍼伝書』で紹介されてる「力鍼穴」刺鍼(リキシンケツ、チカラシンケツ)も腰方形筋を狙ったものだと思われます。力鍼穴に灸頭鍼をすると効果的な上に気持ちが良いです。

横突棘筋タイプ

横突棘筋は背骨の上の深い部分にある筋肉です(半棘筋、多裂筋、回旋筋の総称)。
この筋肉が引きつると、前かがみや体を反らす際に痛みを生じ、腰が固まってしまい、動かせなくなります。

このタイプは背骨の際の筋肉を圧すると、痛みが出ます。

下部の筋が障害されるとお尻の真ん中辺り(仙骨周辺)に痛みが出ます。
また腰より少し上の下部胸椎辺りに痛みが出る場合も、横突棘筋の障害が疑われます。

圧痛部の周辺を中心に、その上下の横突棘筋に鍼をします。
鍼は1寸6分~2寸の長さを使用します。ツボでいえば華佗夾脊穴に近い部位です。

横突棘筋への刺鍼は、背骨に当たる深さまで鍼を進めます。
ということは、自然と椎間関節部への刺激になり、椎間関節の捻挫が原因の急性腰痛にも同様の方法で対応できます。

またこの筋を障害されると、同じ脊髄神経後枝支配の背筋(脊柱起立筋)にも緊張が波及するようです。
そして余計に腰が固まってしまい、前にも後ろにも曲げられずに、棒立ち状態で来院されます。(これは私の想像ですが、障害された部位を保護する為に背筋を総動員して固めているのでしょう。)

脊柱起立筋もガチガチになっているケースでは、一般的に腰痛で有名なツボ、腎兪、志室、大腸兪なども刺鍼しますし、脊柱起立筋の上に乗っている下後鋸筋も緩めます。
脊柱起立筋などの表層の筋肉は、散鍼、知熱灸などソフトな施術でも筋緊張が緩みます。(これも鍼灸師向け情報。)

急性腰痛のまとめ

以上、3種類に分類しましたが、3つがオーバーラップしているケースも多々ありますし、大殿筋・中殿筋・小殿筋などのお尻の筋肉が原因のこともあります(これはお尻に鍼をします)。

筋肉が原因であると明確な場合は、東洋医学的な手法だけはなく、原因の筋肉にしっかりと鍼を届かせて、緩めてあげることが、辛い症状の解消につながります。

急性腰痛には椎間板ヘルニアもあります。排尿や排便に異常をきたしたり、下肢の感覚や運動が麻痺したものは、手術が必要になることもあり、鍼灸院では手が負えません。

しかしながら椎間板ヘルニアと診断された場合も、その痛みがヘルニアに起因するものではなく、神経を痙攣した筋肉が圧迫することにより起こる場合もあります。そのケースでは鍼灸治療が奏功することも多いです。

次に慢性腰痛についてコメントしたいと思います。

慢性腰痛

慢性腰痛も急性腰痛の鍼灸治療とほぼ同じです。
(な~んだ、つまらない。と突っ込まないでください。)

慢性腰痛には、腰に負担をかけている他の原因箇所にも必ずアプローチが必要です。
その患者さんの状態に応じ、大腿、下腿、腹部、臀部などの筋肉へも治療を加えます。

ただ、慢性腰痛の中には単なる筋肉の問題ではなく、脊柱管狭窄症、変形性脊椎症(加齢による骨の変形、骨粗しょう症による腰痛圧迫骨折後の腰痛等)によるものも多くみられます。

腰部脊柱管狭窄症・変形性脊椎症への鍼灸

残念ながら長鍼や特殊な鍼を使用しても、狭窄部位へ直接のアプローチはできません。
鍼灸は万能ではありません。
しかしながら病院で脊柱管狭窄症が原因と診断された腰痛・下肢痛であっても、大腰筋、横突棘筋群、大殿筋、中殿筋、小殿筋、梨状筋等への鍼治療を施すことによって、辛い症状から解放される方もいらっしゃいます。
変形性脊椎症・椎間板ヘルニアによる腰痛に関しても、同様の事が言えます。
(その方々は、狭窄が原因ではなく、筋肉の硬化が原因だったのでしょう。)

諦める前に、一度当院の鍼治療をお試しください。
(5回程で可否が分かると思います。)

残念ながらいくら治療を行っても、辛い症状が解消されない方もおられます。
そのような方でも、施術後数日から1週間程度は痛みが緩和されるケースもあります。
鍼灸治療が根本解決にならない事、効果が永続的ではないことをご説明し、納得の上で、定期的に通われる方もおられます。

主治医のご意見や各種情報をお調べの上で、各自で鍼灸治療の継続をご判断ください。

(筋肉や経穴への刺鍼ではなく陰部神経鍼通電等、鍼灸師に出来ることは全て試してみます。私の祖母も脊柱管狭窄症で長年苦しんでいたので、患者さんのお気持ちは痛い程分かります。現代医学・代替医療問わず、画期的な治療法の出現に期待しています。)

ストレスが引き金になることも

慢性腰痛の鍼灸治療も、筋肉への直接的なアプローチが重要なのです。

しかし厄介な事に慢性痛は心理的な要因が引き金の場合があります。

このことは、整形外科と精神科が連携して診療を行ってる大学病院があることでも、うなずけるのではないでしょうか。

東洋医学では「七情の乱れ」や「内傷」と呼ばれ、必ず病の背景に情動の乱れがあると昔から考えられています。
(ギックリ腰の場合も、体が内傷しているから、外邪(風・寒・湿など)につけ込まれてしまい、突然に腰痛が発症すると東洋医学では捉えています。)

慢性腰痛では、東洋医学的なアプローチも併用します。

具体的には東洋医学的な脈診を中心に、食事・睡眠・大小便等の問診、体形・肌の状態・動作等々の望診を基に、適切な経脈とその経脈上の手足のツボを選択し、浅い鍼を打ちます。
その後、腹部と腰部のツボへ温かいお灸を行います。
(ただしストレスが原因のケースは時間がかかります…)

鍼灸に向かない腰痛

最後に鍼灸に適さない腰痛について列挙します。
以下のような腰痛は、すぐに医師の診察を受けてください。

  • 尿路結石や胆石、内臓からの関連痛が原因のもの
  • 排尿や排便の異常を伴う腰痛
  • 安静にしていても、どのような姿勢を取っても、痛みが和らがない腰痛
  • 時間が経つにつれて、どんどん症状が悪化する腰痛
  • 下肢の運動麻痺、知覚麻痺がひどいもの
  • 脊髄の腫瘍が原因
  • 腰椎、胸椎の骨折が原因

以上。簡単に腰痛の治療について記しましたが、参考になりましたでしょうか?
鍼灸は敷居が高いかもしれませんが、興味を持たれた方は思い切ってお試しください。


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以前に他の鍼灸院に盗用されて、悲しい思いをしました。